気管吸引は間違ったやり方で行うと病気や事故、怪我を引き起こす可能性があり大変危険です。しかし正しい知識、手順で行えばそれらは防ぐ事が可能です。これから初めて吸引を行う方やまだ不慣れな方は、しっかりと正しい知識を学んでから現場に入りましょう。
このページでは主に在宅ケアにおける気管吸引について、解説していきたいと思います。
気管吸引とは?
介護職における気管吸引とは、正しくは「気管カニューレ内部の吸引」です。気管に直接吸引カテーテルを挿入して痰を吸引するわけではなく、気管カニューレの中の痰を吸引する事になります。
気管カニューレってこんな物
口や鼻から呼吸するのが難しい場合、手術で首元に穴を開け、気管カニューレを装着して気道確保を行う事があります。
健康な身体の人であれば咳やくしゃみ、嚥下など自力で痰を処理できますが、気管カニューレを装着されている方はそれらの力が衰え、ご自身で痰を処理するのが難しい場合があるので、吸引が必要になってくるわけです。
気管カニューレ装着図
痰は身体にとって異物となる細菌や埃などを、粘液で絡めた物の事を言います。
痰が溜まったまま放っておくと、気道を塞ぎ呼吸困難に陥ったり、細菌の温床になり肺炎になってしまったり、気管支で滞ればその先の肺胞まで空気を送れず、無気肺になってしまったりと、様々なリスクが増えてしまいます。
そういった理由から、痰はなるべく取り除いていかなければなりません。
安全な気管吸引を行うために必要な事
《清潔保持》の徹底
もし万が一、汚れたカテーテルで吸引を行ってしまうと、気管に悪い菌が入りこむ可能性があり感染症を引き起こすかもしれません。
また、痰はそもそも異物を外に排出する為に作られる物なので、除去する為に行った吸引でまた異物が入り、悪循環に陥る可能性もあります。
吸引は必ず清潔を保持して行いましょう。
吸引における清潔動作というのは、各ご家庭によりルールが異なります。
吸引カテーテルの保管方法や吸引時のカテーテルの持ち方、アルコール綿の保管方法、使用するタイミング等々、各ご家庭でルールが異なる以上、一概にこうするべきだ、とは言えません。
ここでは根本的な考え方についてだけ、説明したいと思います。
そもそもどうして吸引の動作にルールが存在するのかというと、清潔を保持する為です。
具体的には以下の目標を叶える為に清潔を保持するわけです。
- 「吸引カテーテルの清潔を保持した状態で吸引する」
- 「吸引カテーテルを清潔な状態で保管する」
最低限清潔を維持する事が出来れば、万が一決められた手順で吸引出来なかったとしても、ご利用者様の健康は脅かされずに済みます。
勿論、決められた手順を間違えない事が一番良いのですが、例え間違えてしまったとしてもなるべくリスクの無いように、そもそも何が大切な事なのかをしっかりと理解しておきましょう。
正しい知識をもつ
医療的ケアを行う為には医師の指示書という物が必要になります。
介護職は指示書の内容に沿って、医療的ケアを実施しなければなりません。
ただし、指示書というのは、先生それぞれで書かれる内容が違います。
細かく書かれている場合には「吸引圧〇kPa、挿入長さ〇cm、吸引時間〇秒」などの情報がありますが、それらが書かれていないシンプルな場合もあります。
もし必要な情報が書かれていない場合には、医師や看護師、またはご家族の方に、カテーテルを何cmぐらい入れるのか、吸引圧は〇kPaで行えば良いのか、何秒以内に吸引を済ませないといけないのかなど、確認しましょう。(初心者の方の場合は必ず先輩ヘルパーにつく事になると思うのでしっかりと教えてもらいましょう)
カテーテルを挿入する長さがわからないと入れ過ぎて気管を傷つけてしまう可能性がありますし、その上吸引圧が基準値よりも高ければ更にリスクは高まります。また、吸引時間が長くなれば苦痛がより大きくなってしまいます。
それぞれご利用者様に必要な吸引の情報をしっかりと知識として学んでおきましょう。
《確認行為》の大切さ
介護において確認行為というは最も基本的な事であり、最も大切な事でもあります。
せっかく得た知識、技術もそれを生かせないと意味がありません。
一つ一つ、動きの中に確認作業を入れるようにして安全に行いましょう。
しっかり確認しながらやっていると、はじめはどうしても時間がかかってしまうものですが、慣れてくれば流れるような動きの中で、異常に気がつく事が出来るようになります。
気管カニューレ内部の吸引が必要な時というのは、ご利用者様が苦しがっている時が多いと思いますが「早くしなきゃ!」という焦りから確認作業を怠ったりしないよう、いつでも丁寧な吸引を心がけましょう。
初心者の方が混乱しやすいポイント
吸引の手技が人によって違う場合が結構あります。
それによって、先輩ヘルパーから教わった内容と看護師さんからチェックされる内容に食い違いが生じる場合があります。(ヘルパーがご利用者様に吸引をする為には、最終的には看護師さんのチェックをクリアーしないといけません。これを実地評価と言います)
これはどういう事かというと、先輩ヘルパーもはじめは初心者なので、看護師さんの実地評価をクリアーした経験があります。
例えば先輩ヘルパーはかつて看護師Aさんによる実地評価をクリアーしたとします。
この時の吸引手順を[やり方A]としましょう。
この場合、先輩ヘルパーについている新人ヘルパーは当然[やり方A]を教わる形になります。
ここからが問題です。
新人ヘルパーがいざ実地評価を受ける時にはなんと、チェックしてくれるのが看護師Aさんであるとは限りません。看護師Bさんの場合がある、という事です。
つまり[やりかたA]を看護師Bさんにチェックしてもらった際に「そのやり方は間違っている」と言われる事があり得るという話です。
初心者の方にとっては先輩ヘルパーに言われた通りにやっているのに、「一体どっちが正解なの?」っと混乱してしまいますよね?
どうすればいいのかと言うと、「皆が皆同じ手順でやっているわけではない」と理解する事と、吸引の手順はそもそも清潔保持が目的です。
それさえ守れているのであればどちらも正解です。
どちらも正解であるならば、その場においての正解を選ぶべきです。
したがって、看護師Bさんの言う事を素直に聞く事をおすすめします。
「気管吸引(喀痰吸引)って危険なの? 正しい知識と手順について」のまとめ
気管吸引は痰を処理する為に必要な行為です。
痰が溜まったまま放っておくと、呼吸困難、肺炎、無気肺などのリスクが高まり危険です。
吸引カテーテルの清潔を保持し、それぞれのご利用者様に合った長さ、吸引圧、吸引時間等守って吸引を行う事で大きなリスク無く、それらを予防していく事が可能となるので、しっかりと正しい知識をもって、取り組んでいきましょう。
正しい知識と手順で取り組んでいきましょう